最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)843号 判決 1969年12月19日
上告人
三橋春男
被上告人
西原守
外三名
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第一点、第三点および第四点について。
代理人が本人の名において権限外の行為をした場合において、相手方がその行為を本人自身の行為と信じたときは、代理人の代理権を信じたものではないが、その信頼が取引上保護に値する点においては、代理人の代理権限を信頼した場合と異なるところはないから、本人自身の行為であると信じたことについて正当な理由がある場合にかぎり、民法一一〇条の規定を類推適用して、本人がその責に任ずるものと解するのが相当である。しかし、本件において、原審の確定するところによれば、上告人は、原判示売買契約締結の際、被上告人西原守の代理人である藤岡が上告人に交付した守名義の印鑑証明書に記載された生年月日の記載にもさほど留意しないで、藤岡が被上告人守の実印と印鑑証明書を所持し、本人らしい言動に出たことから、自己と同年輩の右藤岡を一五歳も年上の被上告人守と誤信したというのであり、その他原審認定の事実関係のもとにおいては、右誤信は上告人の過失に基づくもので、同条所定の「正当ノ理由」がないとした原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ)の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。所論は、独自の見解に立つて原判決に異見をいうものにすぎず、採用することができない。
同第二点について。
原審は、上告人は藤岡をもつて被上告人西原守自身であると誤信したものである旨認定しているのであり、その認定は原判決挙示の証拠によつて是認できるから、上告人の、藤岡をもつて権限ある代理人と誤信したことを前提とする表見代理の主張はすでにその前提において排斥されたものというべきであり、原判決が明示に排斥の判断を示さなかつたからといつて、なんら所論の違法はない。論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)